シーナ・・・休日のコント  星の間に消えてゆく・・・切ない日々。

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第101話 無垢 09:22
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    この、「静かに」という看板のデザインが大好きだ。すこやかに眠っています。







     『 十一歳 』


    ぼくは、マジックインキをにぎりしめ

    便所のベニヤ板の壁に

    1960年 12月1日 曇り

    と、黒く太く書いた


    母はぼくを叱ったが、消すことはできず

    それからは毎日一度は、金隠しにしゃがみこみ

    目の高さに、その文字を見ていた。


    大人の目には、いたずら書きだったから

    理由は訊かれなかった。


    過ぎてゆく多くの一日が、少しずつ

    水のようにつめたく透明にからだを満たして

    いつかは必ず死ぬのだ。という思いに

    その夜、ぼくは布団をかぶって泣いた。

    はじめての哀しみだった。


    つぎの朝、目が覚めても、ぼくは小学生だった。

    自分の生んだ子が、死にはじめたことを

    母は気づいてはいなかった。

    食膳に出された、野菜を食べようとしない

    痩せた小さなぼくを、優しく叱った。




     豊田敏博という人の詩です。この詩に出会った時、自分と同じような人がいた、と妙に安心したものだ。

     ぼくも…小学校一年か二年の頃、朝目覚めて最初にすることは布団の中で…死にたくない、と泣き叫ぶことだった。死ぬことは夢をみないで眠っているのとは違う。自分がやがて消滅することに絶望しおびえた。なぜかは解らないが、目覚めるといきなりその感覚に捕らわれた。

     だが…
        
    人間とはよくできている。シルクのように細かい感性の織り目が少しずつ広がり荒くなってゆく。絶望や恐怖、そして残念ながら喜びや感動も、荒くなった網目からこぼれ落ちてゆく。そして忘れることができる。
     人間はそのようにできているのだろう。あの頃の感性のままでは、とても生きていくことに耐えられないからだ。

     この詩人は、1949年に生まれ1999年に50歳で亡くなった。残ったいくつかの詩が無垢で美しい。


















     
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